仕事から帰宅していたら、道端の排水溝の近くにうずくまる男女が何やらしていた。
どうせ煙草だろうな、相変わらず終わってんなこの辺の治安はよォ、なんて思いながらふと視線をやった瞬間、どうやら煙草ではないことに気づいた。
女性が鼻うがいをしようとしていた。
おもしろすぎる。
男性はというと、箱の説明書きを読みながら女性に指示を出していた。
おしゃれにキメたファッションの男女が、道端の排水溝で人目も憚らず悪戦苦闘している。鼻うがいで。
考えれば考えるほど笑いが込み上げてきて、私は私でちょっと変な奴に思われていたことだろう。
きっとあの2人の想い出には、たかだか道端で鼻うがいをしたくらいのこと、時間とともに消えてなくなっていくのだろう。私が当事者なら、しばらくしたら忘れてしまいそうだ。
しかしあの時の2人は輝いていた。人生の中のかけがえのない瞬間が今目の前で繰り広げられていたような、そんな気さえする。
貴方の前でなら、鼻うがいしても恥ずかしくない。たとえそれがチラ見されて通行人に笑われてしまうような道端でも。
ぼくもどうってことない。貴女のためなら一生懸命鼻うがいのやり方を読み解いて、苦しみを取り除いてあげよう。
ブレーキランプ5回点滅、ハ・ナ・ウ・ガ・イのサーインー♪♪
ずーうとー!なーんーねーんたあーっ!てもっ!こーおーしてぇぇー、かわーらーぬきぃもぉーちでぇー!
あの2人が恋人同士かどうかも分からないが、いつまでも仲良くしてくれるといいなと思った夜だった。
……なんで家に帰るまで鼻うがい待てんかったんやろう。